「言語能力を高めよう!」(2005.1月 ゆずりはだより 第33号より)

今回も、ハンガリーの研修旅行の記録から。

2005年、もう10年も前の話になりますが、この年のお正月明けに、保育園、小学校の見学も企画した研修旅行でハンガリーを訪れた木村。

「私たちは子どもに何をどう伝えていくのか」をテーマに、ただ答えをもらう、方法を真似たくなるような研修ではなく、私たち自身が「何をどう伝えるのか、それはなぜなのか」自問するところから日々の仕事をふり返り、新たに踏み出すきっかけになれば、との思いで企画したツアーでした。その中で訪れた、マイバ乳児保育園とマイバ幼児保育園の保育シーンから「ことば」について思いをめぐらせました。

 

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マイバ乳児保育園と幼児保育園、両園の共通点はいくつかあるが、その中でも「子どもの成熟を待った上での的確な援助」と「大人の言語能力」について、共通した質の高さを感じた。

「子どもの成熟度」を見極め、的確な援助をするには、11人の子どもをよく知り、子どもの成長段階に適した援助方法を知らなくてはならない。その援助方法の1つとして「大人の語りかけ」がとても大切である。同じ大人でも「何を語るか」は、相手となる子ども11人によって違ってくる。その子の生活環境・言語能力・認識力、など全体をよく知った上で、その子に働きかける「ことば」が生まれてくる。

 

ある幼児クラスで、1人の子どもと保育士が、その子の持ってきた写真について会話していたので耳を傾けて聞かせてもらった。

 

―これはだれ? 「わたし」

―この小さい子は? 「おとうと」

―弟の名前は何ていうの? 「A

―こっちの男の子は誰かしら? 「D

―これはいつ頃撮ったものかしら? 「うーん、わからない」

―むかし撮った写真かしら。髪型が今と全然違うけれど。それに半袖を着ているわ。夏かしら?「あっ、思い出した。ちがう、春。みんなでドナウ川側の公園に行ったときに撮ったの」

―そうなの。あなたのお母さんはどこ?

―この男の子のお母さんはどの人?

―この叔母さんはあなたのお母さんと姉妹よね?それでは、あなたとD君はどんな関係か知ってる? 「・・・」

―あなたとDくんは、いとこって言うのよ。とても楽しそうな写真をありがとう…

 

この後、話は別の写真の方に移って行った。

なんてことのない光景のようだが、保育士が子どもに向けて発するひとつひとつの質問が、丁寧で具体的で、子どもの記憶を呼び起こし、家族関係を意識させ、友だちもその子の家族へ関心をもつような広がりが感じられるもので、子どもが質問に答えながらいろいろなことを思いだし、ことばにしていく様子がとても印象的だった。何より、保育士が子どもを愛している様子が伝わってきた。思わず、日本で保育している私たちは、11人の子どもにどれだけ関心をもち、質問ができているだろうか…と考えてしまった。

 

ここで、写真を持ってくるように意図を持って働きかけたのは保育士である。

でも、その写真をめぐって保育士がした会話は、子どもに何かを教えるためのものではなく、保育士自身の感情がまずあり、子どもとの共感を保育士自身が楽しんでいて、それがそのまま「ことば」になって現れたような会話だった。ハンガリーではこういった様子を度々目にした。でも、もし、単純にそれと同じことを日本に持ち帰り真似しようとしたら「子どもと楽しんで話す」より「教えようとしてしまう」可能性があるのではないか?この違いはなんだろう?

 

ハンガリー人はもともと日本人よりおしゃべりなのでは?と思ったりもする。でもそれだけではないはずだ。

おそらく、マイバで出会った保育士11人にとって「ことば」は「何のために、なぜ、私はそうしているのか」を自身が意識するためにも使われており、その上で子どもに語りかける「ことば」として表れているということなのではないか、と、その後の話し合いの中で強く感じた。

 

つまり、大人が子どもと関わり「ことばを育てる」という時には、

まず、保育士の中に「何のために、なぜ」という問いがあり、

そのことを自分自身の中で思考して整理した上で

素直に自分の興味や感情や愛情をことばにして子どもに語りかける。

そういうことが自然に行われていると、とっても豊かな会話が生まれるのではないだろうか。

 

となると、子どもに語りかける大人自身が、日ごろから自分の内言と外言を大切に使い、自分自身のことばの力を育てていくことが、保育をより豊かにしていく基本であるということだろう。

私も、大人とも子どもとも、豊かな感情を行き交わすような会話が出来る者になりたいし、子どもに関わる大人たちが「子どもに何をどう伝えていくのか」意識するためにもこうした気づきを言語化できるようでありたい、と改めて感じさせられた研修だった。

(木村はるみ)

 

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