何を指し示すのか?(2013.7月 ゆずりはだより 第84号より)

 今朝、曇り空の下、にぎやかなすずめの声が聞こえてきました。すずめの声を聞きながら庭の花を見ていて、ふっと「赤ずきん」の中に出てくるオオカミの言葉を思い出しました。

 

「…そこらじゅうにきれいな花が咲いてるじゃないか。

どうして、あんた、まわりを見ないんだね?

小鳥がかわいらしい声でさえずってるよ。

それもきっときこえてないんだろう?

まるで学校へいくときみたいに、わき目もふらず、歩いてるものな。…」

 

オオカミに言葉を掛けられた赤ずきんは、初めてまわりの花や小鳥、木々からのこもれ日に気づきます。そして、花を摘んでいったらおばあさんが喜ぶだろう、と他人を思いやる気持ちが生まれます。しかしそのあとに「こと」が起こります。オオカミが赤ずきんに指し示したことは間違ったことではありませんでしたが、“うら”がありました。「こと」が起こったのは、赤ずきんが抱いた思いそのものが正しくなかったからではなく、その場の状況に対する選択が誤っていたためです。

 オオカミのお腹から助け出された赤ずきんは「これからは、おかあさんのいうことをきいて、道からはずれて、ひとりで森のなかへはいっていくようなことは、けっしてしないわ」と言います。お母さんが赤ずきんに託したのは、おばあさんへお見舞い品を届けることでした。赤ずきんはこの段階で「お母さんの言うことを聞くこと」が自分にとって大切な選択であり、おばあさんへのお見舞いが大切な選択であったことを知ったのだと思います。

 

 私たちは、何を取るか何を捨てるか常に選択して生きています。選択は常に正しいとは限りません。より正しい選択ができるようになるには、成長と様々な経験が必要です。そして様々な経験によって形成される価値観によって1人ひとりの選択がなされるようになります。

 では、子どもたちが今の目的、より遠い大きな目的に向ってよりよい選択ができるようになるために、私たちは現在の時点で何を指し示し、託し、どうあったらよいのでしょうか?

 

 周りの森に気付かせる、小鳥のさえずりを楽しみ、きれいな花を摘み、こもれ日に喜びを感じさせることも大切です。何かの目的に集中し、遂行する経験をさせることも大切です。そしてなによりも、大人である私たち自身が、今行っている言動、選択が何にどう繋がっていくのかを意識していかなくてはならないと思います。

 大人の目的は「経済」であったり「名誉」であったり「娯楽」であったり「自己決定」であったり「学問」であったり…と価値観の違いによって異なります。しかし、多くの場合、その目的は「自分や家族が幸せでありたい」との願いに基づいているのではないでしょうか?

 

 どれも否定するものではありませんが、デンマーク研修から帰国してから頭の中を離れないことがあります。それは「民主主義」です。いま、日本は「民主主義」の意味を再度考え直さねばならない時期にある、と考えています。

 民主主義とは、多数決ではなく徹底して話し合って物事を決めること。そのためには自己決定と連帯意識が同時になくてはならない、というのがデンマークの教育の根底にある価値観です。「世界一幸せな国」といわれるデンマークの国のあり方から、私たちも学べることがあるのではないでしょうか。

 私が小学生の時に受けた社会の授業で、先生は「民主主義は多数決で物事を決めることです」と説明し、それに対して私はずっと納得がいかず、違和感を抱き続けてきました。人は安易な方に流れていきやすい。その方向が良くない方向であったとしたら、そして多数の人がその方向に賛成の意見を言ったならその安易な方向に進んでいく。本来あるべき姿でなくなってしまうのが目に見えていてもそれに従うことが民主主義なのか?それが民主主義であるならば、本来民主主義は大したものではない、という気持ちでした。

 「民主主義」の根底にあるのは、自分さえ良ければそれで良いという考えではなく、自分と同じように隣の人、あなたも彼も彼女も、同じように良くなければならない、大切にされなくてはならないということだと思います。自分の意見だけを押し通すのではなく、違った人、違った意見をどうお互いに受け入れ、調整していくのかということが大切なのではないでしょうか。

 

 私たちが毎日接している子どもたちに、どのような社会、どのような世界を残していこうとしているのかを自分自身、問い直していきたいと願っています。息抜きも娯楽も経済も大切です。でもそれは子どもへ託す目的ではないでしょう。赤ずきんのお母さんが赤ずきんに託したのはおばあさんへのお見舞いでした。それは他人への配慮、よい関係です。

 子どもは大人が思う以上に、大人の姿、言動をよく観、感じています。

私たち大人1人ひとりの価値観、生き方がそのまま子どものモデルとなっていることを意識し、見直し続けていきたいと願っています。 

 

(木村はるみ)

 

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