【美術・報告】からだが動く・こころが動く「美術」の世界

毎年大好評をいただいている、夏の「美術」講習会。

今年も、彫刻家・色彩造形研究所所長の葉山登先生と、

染織家の葉山澄子先生ご夫妻を講師にお迎えし楽しい二日間が終了しました。

会場に入ったとたんに「なんだか楽しそう!」とワクワクした様子の方もいれば

「美術はちょっと苦手で・・・」と緊張しながら参加される方もいましたが、

2日間の講座の最後にはみなさんが

「美術が苦手だったのに、こんなに楽しめるなんて」

「こんなに楽しいなら毎週でも来たい!」

とすっかり笑顔に。

できあがった作品と、明日からの保育に活かせる美術の世界をお土産にかえっていかれました。

 

そんな二日間の様子をダイジェストでご報告します♪

葉山先生の美術教育のテーマは

「いかにして、子どもたちが本来もっている感性・好奇心・意欲・自ら学ぶ力を引き出すか」。

特別支援学級での指導、民俗学、ドイツのシュタイナー教育に触れた経験…

お二人それぞれのこれまでの人生経験すべてが、今の「美術教育」スタイルへつながりました。

 

まずは先生の情熱がこもった「講義」から始まります。

 

自分の中に中心を持つことが大事。

 つまり、自分が『できること』を見つけるということ。

 そのために『自分がよくなろう』と思うこと。

 人のせいにしてそれで解決しようと思わないこと」

 

「子どもは、自分で何かを学び取り成長しようとする力を元来持っている。

 大人の仕事は、『今すぐに結果が出る』ことを期待して何かを教え込むでもなく

 かといって何もしないのでもなく、願いをもとに働きかけて待つこと。

 つまり主電源のスイッチだけはオンにしておく。

 あとは子ども本人がいつか自分の力で起動させる日を待つ。

 幼児期にどれだけスイッチをオンにしておけるかがとても大事。」

 

ふむふむ・・・美術というより保育原理とか道徳の授業みたい・・・

先生、じゃあどうしたらスイッチをオンにできるんでしょうか?

 

さぁ、そこからが本番!まずは水彩画で自分のスイッチがオンになる感覚を味わいました。

色と色の出会いを体験する水彩画

“赤やオレンジは暖色で、青っぽいのは寒色で・・・”

“色の輪っかの中で赤と緑みたいに補色関係というのがあって・・・”

 

「こういうのは『色彩の概念』です」と澄子先生。

学校の授業や保育士試験で習った方も多いですよね。

一方、「色彩の感覚」とは?あなたは持ってる?と問われると、すぐにはピンとこない方が大半です。

だからこそ、この水彩画の講座は「色彩感覚」の言葉の意味や、なぜそれが人間にとって大切なのか、というおはなしから必ず始まります。(その詳細はぜひ昨年の報告をご覧ください)。

 

ほ~なるほど!と心が動き出したところで実際の水彩画へ。

赤・青・黄色の3原色の透明水彩絵の具を濡らした画用紙の上に置いていきます。

それは「絵を描く」というよりも、画面に自分が働きかけ、画面から働きかけ返されるコミュニケーション

「色と色の出会い」「色と自分の出会い」を体感しながら自分がスイッチオンになる感覚をつかんでいきます。

絵を描くのが苦手~という方も、目を輝かせながら色の世界を楽しむことができました!


どこにでもある○○で簡単摺り染

園庭事情に恵まれているとは限らない都会の保育園ではとくに、

子どもたちが自然を体感し興味をもつきっかけづくりには悩まされますよね。

でも、立派な園庭がなくても、そのへんの道端にはえている「雑草」を使って、素敵な染体験ができるとしたら?

 

この日は炎天下の中、近所の路上へ雑草をつみに行くところからスタート。

いつもはあまり目を向けることない雑草をいろいろと手に取り

「これはよく色が出そう」「この植物なんていうんだろう?」想像力をふくらませます。

そして思い思いに持ち帰った雑草を紙にこすりつけると、思った以上にバリエーション豊かな色が表れました。

「わー!」「同じ緑でもいろんな色がある!」

それを好きな形に切って貼って・・・あっという間に楽しい暑中見舞いはがきができあがり。

 それぞれの個性が光る作品を壁に並べるとあまりの愛らしさにうっとり。

「どれもいいね。」「全部違うね。」と、鑑賞そのものも楽しい時間になりました。


「オノマトペ」を表現した手作り絵本づくり

もこもこ、ぴょんぴょん、くるくる…など「擬音語・擬態語・擬声語」を総称して「オノマトペ」と言います。

日本語はこのオノマトペがずば抜けて多い言語といわれており、私たちが生活の中でものごとのニュアンスを感じたり伝えるために欠かせない存在です。

音の響き、そこから目に浮かぶカタチや触り心地など・・・オノマトペは「言葉」でありながら耳や目や皮膚感覚に直接働きかけてくるような独特な存在感があり、小さな子でも楽しめる絵本のテーマにぴったりです。

 

さてまずは、絵本づくりに取り掛かる前に

全員で渦巻き歩き・・・そしてひとりひとり、好きなオノマトペを口にしながら全身を動かして表現。

登先生いわく「表現の根っこには『感動』が必要。それは、まずからだを動かして、心が動くところから始まる」

だまって座ってじっとして心だけを動かそうとするのが難しくても、身体を動かすことでイメージを持てることがあります。それがまず、子どもたちと美術を楽しむ大きなヒントになりそうです。

 

そこからさらに、たくさんあるタント紙の中から、自分の絵本に使う紙をまずは選んでいきます。

「自分で選ぶ」ことの楽しさも体感し、子どもに「自分で選ばせること」がなぜ大切なのか

ということもふと腑に落ちる瞬間です。

そうして選んだ紙に、墨とパステルを使ってそれぞれのオノマトペを表現し、

最終的に製本まですべて手作りで世界にたったひとつしかない絵本を完成させました。

 

この講座では、作業の途中、必ず一度全員手をとめて、お互いの作品をぐるりと見て回る時間をとります。

「こんな表現もあるんだ」「この色の組み合わせ素敵」

他の人の発想や表現に触れ、いいなぁと思ったものはお互いに取り入れていく、

そうするとまた最後には違った表情の深い作品が表れるのです。

「他の人のまねをしちゃいけません」の真逆、

「お互いのよいところに影響を受け合う」こんな美術体験だからこそ

「友達の良さを認め合い、仲間として生きていく」ということが身に付きます。

 

「美術教育は『美術を教育すること』ではなく「美術 “で” 教育すること」

 

と葉山ご夫妻がおっしゃる言葉どおりに

「あそびを通じて子どもたちが生きる力を育む」

とはどういうことかを改めて実感できた気がする二日間でした。


参加者の感想

●私は描くことが苦手なのですが、今回の研修では、無心で夢中になって楽しむことができました。これが美術の原点なのかなと思いました。感動がたくさんありました!

 

●「具体的な体験から得られる心の動き」というお話しを伺って、今回の体験から自分の心の動きをとても感じました。どの作品をつくるのも楽しくて、自然と笑顔が生まれました。こういう楽しい気持ちを子どもたちと感じたいです。

 

●最初にお話ししてくださった「上手・下手ではなく、自分はどう表現しようかな・・・と考えることが大切だ」という言葉に、とってもホッとし、あーこの二日間大丈夫だ!と思えました。どんな作品でもあー素敵ね、と受け止めてくださる講師のお二人の姿・・・子どもたちの前に立つ時は忘れずにいようと思いました。

 

●実際に体験することで“心を開放する”ことの気持ちよさ、美術・造形の楽しさを味わえた。自分の身体・心を動かすことが興味・関心につながることもよくわかった。“日常の当たり前”が興味深く感じられた。

 

●様々なプログラムの中で、物に触れ、人の表現に触れ、自分の心に触れることで、満足感・充実感で心の中がいっぱいになりました。

 

●絵を描くことや制作することに苦手意識があったのですが、今回実際に身体を動かして心を動かすという働きかけの中でやってみて、すごくすんなりと出来て自信になりました!自分のクラスにもなかなか美術に取り組まない子がいるので、どのようなアプローチなら自然と参加できるか、参考にして考えていきたいです。

 

●二日間の研修を終えて一人一人異なる作品を見たとき心から「みんなちがって、みんないい」と思いました。

 

●「できることをやる」という先生の言葉に肩の力が抜けた気がします。私の園は自然が少なく「できない」「やれない」と思ってばかりいましたが、私たちの園でできることをやればいい!できることがある!と思いました。

 

●以前にも参加してとても楽しい研修だったので今回も参加しました。保育現場でもすぐに使えるステキな美術を教えて頂けてうれしかったです。学びことがたくさんあるのはもちろん、自分自身がとてもリフレッシュできることがありがたいです。